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帰らぬ君へ    49年度卒  大内美佳

 長谷君、君がヒマルチュリから帰らぬ人となったなんて、とても信じられない。なぜか君だけは、どんな山に行っても帰ってくる人だと思っていた。 そんな不思議な生命力にあふれていた人だった。

 山の夜は、いつもファイヤーを囲み、夜がふけるまで歌を歌ったね。腹の底からの力強い歌声が、今も耳に残っている。山に傾けた情熱をほとばしらせて、とうとう議論を始めたら、誰にも負けなかったね。他の誰が何と言おうと、自分の信念をまげないその生き方に、私はひそかにあこがれていた。 そして、もう会えない君のことを思うと、誰に向けようもない怒りを感じる。 「好きな山で死ねて本望だっなんていう人がいるかも知れないけれど、私は決してそう思わない。山で死んで、 一番くやしい思いをしているのが君だろうと思う。

 ダウラギリに登る前、 君はこんなことを言っていたね。

 「私にとっては、あくまで八千メートルは命をかける対象ではない。単に生きる手段だ。 生きていくために頂上を踏むのであり、踏むために生きているのではない。 現在の私の生き方が、社会一般からかなり逸脱していると思うけれど、私なりにまったく正当なんだ。 15歳の時、 「山登りなんて、どこがおもしろいのか。」から始めた男が、ひょんな拍子にこんなことまでやらかそうとしているのもまたおもしろいことだ。頂上にタッチできるかどうかより、 何を考え、 何を感じて帰れるかを大切にしたい。もちろん、頂上にタッチした方が、より大きなものが得られるとは思うけどね。

 車に乗るにもシートベルトをきちっとしめ、とても慎重に運転していた君。 生きて、 やりとげたいことがいっぱいあったはずだ。 どうして山で死ねて本望だと思えるだろう。

 私は、 こんな文をかきたくなかった。 ヒマルチュリから一段と大きくなって、 目を輝やかせて帰ってくる君を見たかった。 もう、 何を言っても答えてくれない。 手紙を出しても届かない。 ひとめ会うこともできない。 この厳しい現実を直視せねばならぬのか。

 君は帰ってこない。 でも、君の姿は私の心の中に焼きつけられている。 私は忘れないだろう。君の山への情熱、 ヒマラヤにかけた青春を。

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