追悼 47年度卒 平尾政裕
真っ暗な海面に漂う1点の電気うきをながめていると、何か異次元の世界へ引き込まれそうな錯覚を覚える事がある。 かつて、小生も、それと同次元の感覚を覚えつつ山へと向かった。
讃岐の山、四国の山、中央アルプス、そして北アルプスと歩むに従って、その時その時は新しい感覚を感じることができたが、 徐々にその感覚は希薄なものとなっていった。 その原因は、 山が変化しないとするならば、人の内面変化によるのだろうが。
山を手掛けた者がヒマラヤへとその歩を進めていくのは、より大きなそしてより深い自己満足を得るためには極めて自然な事と思う。 ただその非生産的行為の代償はあまりにも大きい。
とうとう奴は逝ってしまった。 ヒマラヤからの最期の葉書だけを残して。
ヒマラヤの経験がない小生にとって、どんな状況で、何が起こったのか知るすべもない。 ただ遭難の事実だけを認める事しかできない。 奴と出会って今日までお互いすれ違いばかりだった。 ザイルを組んだ事とうとう1度もないままとなった。だけど明日になればまた会える、またいつでもザイルは組める、そんな気がする。今までだってそうだった。 ただ明日までの時間がいつもよりちょっぴり長くなっただけだ。長谷よ! おれが行くまでにいい山探しておいてくれ。 今度会った時、去年の夏借りたサブザック返すから……。合掌。